月曜日の朝、雨降り、ポプラの木の上から

 月曜日、朝、寝坊する夢を見てそれがリアルに脳裡に残る。私は、非常に不出来な人間ではないかと思う。寝ては起きられず、仕事は真面目にゆかず、学業は振るわず、一途に一人の人を想うこともできず……。月曜を生きる人間には自分の思うようにならないところにばかり行き当たる、そんな日の朝にやることはUNISON SQUARE GARDENの3rdアルバム「Populus Populus」を聴くことです。論理が雑でしょうか? そうでもありませんよ。

 私は不真面目なリスナーで、快不快の感情のみで音楽を聴いているのだが、ユニゾンで一番おすすめのアルバムは?と聞かれれば「Populus Populus」と言いたいところだが、そうも言いきれない、その時々のテンションで「JET.CO」と言ってみたり「Dr.Izzy」と言ってみたりしている。「Populus Populus」とはどんなアルバムかと聞かれれば、他のアーティストに寄り道したって、結局はこのアルバムに立ち返ってしまうような一枚だと思っている。

 以前なんとなく、人に、「『Populus Populus』は構成がいい」などといった知った風な口をきいてしまったことがあって、それは何なんだろうと自分で考えてみる。今朝アルバムを通して聴いてみて思ったこととして、収録されている曲の大体の毛色が似通っているのがある。毛色というのが分かりづらければ毛並みと言い換えてみてもいいし模様と言い換えてみてもいい。とにかく、この曲今の気分にはまっていて聴いていて気持ちいいな、と思う曲の次の曲も同じ感情を呼び出してくれるのだ。

 最初の曲が「3 minutes replay」、歌い出しは「世界が変わる夢を見たよ だけど今日もひとりぼっち」。今朝方見た夢はこんなものではなかっただろうか。思い返してもどうにもならなくて、夢の中だからうまく体も動かせなくて。だがこの曲は決して暗い曲ではない。いわゆるアルバムの一曲目にふさわしい、とまではいかないが、ユニゾンにしては珍しく派手なイントロに始まる。「世界が変わる夢を見た」と言い切って終わり、間髪入れずに2曲目「kid, I like quartet」のドラムリフが始まる。

 みんな大好き「kid, I like quartet」はライブでおなじみですが、いわゆる盛り上がりやすいメロディに合わせて肯定する歌詞があるから良いですね。なんたって「as you like」ですから。その肯定というのは、「こんないいところがあるよ」という並みの肯定ではなくて、サビを聴くと分かるのだが、「悲しくなることもむかつくこともあるけどそんなの当たり前だよね」という冷めつつも泥臭い肯定である。前の曲と毛色が同じといった意味が解ったでしょうか。

 次に来るのが「プロトラクト・カウントダウン」。打って変わって時代・世界、そういうものを否定する、疑問を持つ。でもそれにはっきりした理由なんかなくたっていい、とにかく世界の方が間違っているのだ(「なんか違うよなんか違うなんか」)。「kid, I like quartet」とは違う負の感情の捏ね方というか、消化の仕方な気がしている。あとこの曲はBメロ→サビ前とか、サビ前半→後半などの静/動がはっきりしていて単純にかっこいい。

 次の曲は本当に大好きですね、「きみのもとへ」です。「反実仮想」って覚えていますか? そのことを歌った曲なのだが、ここでもうまくいかない世界というのがテーマになっているというのが分かるだろう。「できるなら 心と体を2つにわけて 君の元へ」なんて思わない人はいないんではないですか、知らんけど。最後になるにつれてVo.斎藤さんの歌い方がだんだん上ずっていくというか、切羽詰まっていくようになっていくのが本当に不思議に聞きやすい。ベースソロ前のCメロとかラスサビとかかなり上の方に音程がずれているのにしっくりくるのが良くて、一回歌うときに真似してみましたが全然できなすぎて逆にびっくりした。

 「僕らのその先」もラブソング風味なのだが、「君」が不在のラブソングだ。「夕方5時のベル 西日が眩しい街」などのノスタルジーが正統派なバラードに乗せられる。この曲はコーラスが非常に綺麗ですね。最近のものと比べるとアルバム通してやや音数が少ない分、コーラスが良く目立っていいです。

 「スカースデイル」もバラード。ここまで書いて今の気分が「Populus Populus」っぽいなと思う月曜日に閉じ込められた皆さんはYouTubeで聴いてみるといい(と思って探してみるとショートバージョンになってしまったらしい……。 https://www.youtube.com/watch?v=yhr5dBiv2UE )。ギターリフ(で合ってるのかな)が

悲しみを誘う。で、この曲から徐々に「始まり」へ志向していく。「ねえ 今を過去にするような 二人だけの明日を作ろう」。似たようなバラードの連続と見せかけて、私たちは悲しみから徐々に抜け出ていく。目を上げている。「始まりの朝はすぐそこまで」である。

 その次には可愛いメロディの「ワールドワイド・スーパーガール」へと雰囲気をがらっと変える。まあ落ち着いた曲調もそろそろ飽きが来たころである。この曲はかなりのバカだ。なんせ今までとは違って歌詞に中身が全然ない。てかワールドワイド・スーパーガールってなに? そんなこたどうでもいいんだよ。

麦わら帽子がやたらと似合うんだが笑わない彼女は

かなりのご都合主義

「ピアスなどは興味がないわ あるのは明日の天気だけよ」

だけど予報は信じない

とか言われたらかなりすべてがどうでもよくなりませんか?

 次の曲は一番の大バカで、私がかなり助けてもらっている曲だ。「CAPACITY超える」という。歌詞をめちゃくちゃ貼りたいと思う。

キャパシティ超える 事例があって困る

昨日の夜から 冷蔵庫扉が開いてる

キャパシティ超える 大好きだったドラマ

楽しみだったけど 先週末で終わってる

 

望んでいるのは金縛り

大嫌いなあのミュージシャンも一緒にお願いしたい

そこでハッとして さらにグッと堪えて

そうだ 動けなくなっちゃったら広い野原を走り回れない

 

キャパシティ超える キャパシティ超える

寝ても覚めてもおんなじ景色なら どうすりゃいいんだよ

キャパシティ超える ねぇマスターお願い

全部が全部忘れちゃうくらいのおかわりちょうだい

 私はこの歌詞すごいと思うし、さらに「Populus Populus」のこれまでの思想すべてを集約していると思っている。まずAメロでうまくいかない現実があり、Bメロで自棄になったり人を恨んだりするんだけど陋習の美しさや楽しみを見いだし、サビで直接問題を解決するわけではないけど、一つの終わりを迎えて、その繰り返しの毎日で。一見バカに見えますけどこれは天才の歌詞ですよ。メロディも神の領域で、まず前奏を聴くとベースがエグい曲かと思いきやギターのカッティングもところどころエモく、ドラムソロもちゃんとある。で、三つの楽器がずっとエグくほとんど全パートソロみたいなテンションでいくわけだが、サビに入る直前、歌詞で言うと「広い野原を走り回れない」のほとんどリズムのないボーカルの裏で三連符が揃う気持ちよさがすごい。そして1番、2番、Cメロ以降違ったメロディの展開をするという、アルバムの中曲とは思えないほどの力の入りよう。これは是非聴いて炊き立てのご飯を食べてほしい。

 「CAPACITY超える」について語りすぎてしまった感がぬぐえないが、アルバムでは間髪入れずカウントの後に「場違いハミングバード」が続く。これもYouTubeで聴いてもらえばいい、ということで流したかったのだが、消されてしまっていた……。実は私はヘ長調の曲が好きなので「場違いハミングバード」を聴くとほぼ100%その場で盛り上がってしまいます。何がかっこいいって諸説ありますがドラムですね、そんな気がします。最初の16分の細かい刻みからの派手なシンバルへの盛り上がりが良い。

 次が「カウンターアイデンティティ」。この曲は大切にしなければならないという気でいる。よく理解しているは分からないのだけど。音源化されるときに「カウンターアイデンティティ」となっているのだが、その前は「神に背く」または「少し黙ってろ」ともいったらしい。出だしがギターとボーカルのみで、「僕らは声が枯れるまで 存在、続ける」の一節と「Jesus」を高らかに歌い上げる。個人的にこの曲を「Populus Populus」の連続の一部として扱っていいのかどうにも決めきれない部分がある。サビの、

僕らは声が枯れるまで

存在し続けるんだよ太陽に背を向けながら

あなたの声が痛いほど突き刺さるから

どうにも思い通りに進まない

少し黙ってよ

は「プロトラクト・カウントダウン」と似た部分があるとは思っているが、やはり違う部分が大きくて、というのも、一曲で歌い上げるには内容が多すぎるのだ。太陽に背を向ける事、少し黙ってろと言ってしまうこと、そして「あなた」の存在をうまく位置付けることができない。今はよくわからないからこそ、大事にするべきなのだという気がしている。いずれ、意味がしっくりくるようになる日が来るんじゃないかと思っていて、その日が来るまで大事に持っておこうと思っている。

 「未完成デイジー」の境地にも自分でまだ至ることができていないと強く思う。「いつか僕も死んじゃうけど それまで君を守るよ」なんていう、終わりが見えているけどそれでも強い感情を人に言うことはできないだろうなと思う。デイジーは良い花ですね。

 その次に来るのが「オリオンをなぞる」で、この曲についてはここでそんなに書く必要はないんじゃないかと思っている。「未完成デイジー」と合わせて正統派ラブソングと言えるのではないですか、終わり。

 「オリオンをなぞる」で終わらないのがユニゾンのキモいところで、というのもユニゾンのアルバムは一曲目と最後の曲がシングル曲であるということはないんですね~、そして各アルバムの一曲目とラストを10周年の武道館で全てやったということがあるのでその二曲に非常に重きが置かれているというのがわかりますね。「Populus Populus」の最後は「シュプレヒコール ~世界が終わる前に~」。

ああ 聞こえてる 聞こえてるんだよ

ありふれたそのフレーズも 急かす星の囁きも

ああ 自分の声で届けたいから

何度でも何度でもここに立って、そして

 

あなたの名前を呼ばなくちゃ 夜が明ける前に

 

声が枯れても繰り返さなくちゃ 世界が終わる前に

 このフレーズの後に歌詞にはありませんが「way for the loser, way for the braver」のリフレインがあって終わる。このリフレインの歌詞はもういつの間にかとっくに月曜日の憂鬱を抜け出していて、大きな推進力を持っている。そう、なぜ「Populus Populus」を聴くといいかというのはこういうことだ。ままならない現実を歌いながら、いつの間にか無理なくそこから抜け出てしまっている。とても暗い穴に落ちていたはずなのに、実はトンネルで出口があったというような具合だ。わかりますか? 今朝ふと整合性をもって語れるんじゃないかと思ったのですが、案外うまくはいかないものですね。やっぱ実際聴いてみてくださいよ、こんな文章を読んでる暇があるんなら。